出遣い

2012/11/12 Mon (No.895)

 文楽11月公演の解説書のなかで、新進の作家千早茜さんが、「聴く物語」と題して文楽についての印象を述べています。千早さんは、まだ文楽に触れて3年足らずだそうですが、毎公演必ず見にこられているそうです。

 その文章の中に、「通ううちに舞台の仕組みには慣れた。すると、今度はいろんなものが消えるようになっていった。まず、人形遣いが消えた。そして無表情だったはずの人形が感情をありありとみなぎらせながら迫りだしてきた。『人形がね、ぐわっと迫ってくるんだよ』とは、わたしを文楽に誘ってくれた人の言葉だ。まさにその通りだと思った。血の通っていない人形が恋をして苦悩に身を悶えさせる様は艶かしかったし、死んだ瞬間にごろりと物に戻る感じには背筋がぞくりとした。人形が生き生きとすればするほど舞台も周りの観客たちも消えていく。大夫の声も三味線の調べも消えて物語の中にすっぽりと埋もれ、最後には自分が消える。」というくだりがあります。 

 文楽の魅力と特徴がよくとらえられています。わたしもその通りだと感じます。黒衣を着ない出遣いが目障りだといったひとがいましたが、そんな風に感じられるのは、まだ文楽をよく理解していないからだと思います。。

 黒衣も出遣いも演じられる物語の中で捨象されていきます。大夫や人形は物語のシンボルです。そして物語は感性のうちにとらえ直され、鑑賞者自らの経験をもとに敷衍され、そしてわたしの物語となっていきます。少なくともわたしには、そのように感じられます。
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進路ルーム

Author:進路ルーム
京都の大学で大学・大学院と8年間を過ごし、高校の教師となりました。文系ですが、コンピュータ大好き人間。人間(生徒)に倦むと機械(コンピュータ)が恋しくなり、機械に倦むと人間が恋しくなります。

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