公立高校崩壊条例

2012/02/10 Fri (No.611)

 8日におこなわれた大阪府の府市統合本部の会議で、松井大阪府知事と橋下大阪市長が教育基本条例に「保護者の異議申し立て権」を盛り込むとの提案がありました。それは、知事・市長側は基本条例から教員の相対評価をなくす代わりに「保護者から不適格教員の申し立てを受け、訴えが妥当と認められれば指導対象の対象にする」ことを求めたものです。

 具体的な仕組みは今後きめるにせよ、知事や市長によると、①住民や保護者で作る学校評議会に、保護者が不適格教員を申し立てる。②協議会は訴えが妥当だと判断すれば校長に伝える。③校長は教育委員会と協議し、指導研修の命令を出す。④研修の成果が出なければ免職も、という制度を構想しています。(出典 朝日新聞2月10日朝刊)

 「受益者」の意見を聞くといいますが、教育の受益者とはいったい誰でしょう。それは生徒たちであるはずで、保護者ではありません。少なくともわたしは生徒の保護者のために授業はしていません。保護者の利益のための進路指導もしていません。わたしの対象はあくまで「成長していく生徒たち」なのです。

 また教育という行為は商行為ではありません。授益ー受益という関係が教育に単純に当てはまるとは思っていません。生徒に受益者としてのあやまった優越感を植え付けるのは教育ではありません。生徒に社会のルールを学んでもらうのも立派な教育です。

 保護者との軋轢の矢おもてに立つのが生徒指導の局面です。遅刻や無断欠席、授業中の私語や暴言、いじめ、飲酒・喫煙、器物損壊、これらの行為を見過ごしにするとあっという間に学校は崩壊していきます。そのため保護者に連絡し、生徒を説諭し、保護者同伴で懲戒(校長訓告や停学)を申し渡します。しかし、どの学校にもモンスターペアレントやクレーマーが存在します。とくに教育環境や家庭環境が厳しい状況のなかでは、教師を信用せず、子どもの主張を一方的に信じて、「何でもクレームを言ったほうが勝ち」と考えている保護者もいます。学校の行為を非難し、その処分にかかわった教師を糾弾する。このような中で「不適格教員」として申し立てられたなら、教育に未来はありません。

 教師も変化します。生徒指導と関わることを避け、クレーマーのいるクラスの担任はなんとしても忌避したくなります。保護者からの申し立ての終着点は免職かも知れないのです。今までは、札付きの生徒でも自ら進んで担任を持とうとする度量の先生がいました。しかし、今後は教師を続けたいのであればそのような冒険はしない方が得策です。アメリカの公立学校のように銃を持った警備員が校内を巡回するようになるかもしれません。

 あるいはひょっとするとこれは公立高校にしかけられた巧妙なわななのかもしれません。公立高校の教育力をなくし、教師の意欲をそぐことによって、ますます公立高校を魅力のないものにしていく。そしてその結果多くの公立高校を廃校にして、教員の経費と生徒にかける経費を削減する。しわ寄せを私立学校が負担し、教育の私学民営化を促進する。民意にもとづいたすばらしいシェイプアップ政策ではありませんか。

 だが、教育は市場経済の原理で動いているものではありません。損得を考えず学びあって成長する、一見無駄なものが将来の生徒の糧になるかもしれないのです。思いつきと効率のみを追求する橋下教育行政には不安を覚えます。
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Author:進路ルーム
京都の大学で大学・大学院と8年間を過ごし、高校の教師となりました。文系ですが、コンピュータ大好き人間。人間(生徒)に倦むと機械(コンピュータ)が恋しくなり、機械に倦むと人間が恋しくなります。

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