教育基本条例案に対する教育委員の見解

2011/11/23 Wed (No.528)

 教育基本条例案には、教育長を含めた教育委員も異議を唱えています。10月25日に教育長を除く教育委員5人の連名で反対の声明を発表しています。そして同日会見を開き、「条例案は政治の教育への介入を戒める現行法の精神に反するもので、この骨組みが変わらない限り、各論で知事の譲歩を引き出しても問題は残る」(朝日新聞 10月26日)と主張しました。そして修正の有無にかかわらず、条例案が可決されれば総辞職するとの意向を明らかにしています。
 
 この会見で「陰山英男委員は、条例案が可決されれば、知事が設定する教育目標を前提にして府立高校の校長が公募で選ばれ、『知事は全高校を意のままに動かすことができるようになる』『これは教育独裁条例だ』」としています。また「学力テストの学校別の結果公表や教職員の約5%に最低評価を付ける相対評価の導入など、競争主義を重視する条項」に対して「元松下電器産業四国支店長の中尾直史委員は、『民間でも上司は権力でなく誠意と愛情で人を使う。分限処分と絡めた相対評価の導入は現場の混乱を招くだけ』。ダイキン工業取締役兼副社長の川村群太郎委員も『会社も性善説を前提に人の可能性を信じる。人の成長を期待する風土づくりが大切で、(学校現場を)押さえ込む手法とは一線を画したい』」と述べています。

 民間出身の教育委員からも反対意見が出ているのです。会見には出席しなかった中西正人教育長は「『白紙撤回を求めるスタンスは全く同じ』」としたうえで、「『私には教育行政の混乱を最小限にする責任がある』として、可決された場合の委員辞職には同調しない」との考えを示しました。(「 」の中は前掲朝日新聞記事より引用)

 大阪府の教育委員は、大阪府知事が議会の同意を得て任命することになっています。とくに「百ます計算」で有名な陰山英男委員と「小河式プリント」の小河勝委員は、知事の要請で教育委員に就任した人物です。それらの教育委員がいっせいに「教育基本条例案」に反対したわけです。その意味するところは大きいと思いますが、これに対して、維新の会では、教育委員がちゃんとした仕事をしないのなら辞めて当然と問題をすりかえています。

 皆さんはどうお考えですか。参考までに、「教育基本条例案に対する教育委員の見解」の全文を掲載します。少し長いですが、できれば目を通してください。

 教育基本条例案に対する教育委員の見解
 今回の教育基本条例案が提起されて以来、私たち教育委員は困惑と苦悩の中で、大阪の教育の発展の道筋を求め、さまざまな議論を行ってきた。教育制度の構築には、本来もっと多くの時間をかけ、各界の広範な意見を集め、しかるべき手続きを経るべきと考える。しかし、教育基本条例案が選挙の争点となるという切迫した状況下、私たちは教育委員の責任として、一つの見解を出さざるを得ない。私たちの見解は次の通りである。
 「教育基本条例案は白紙撤回されるべきであり、修正の有無は関係なく、これが可決されれば、私たち教育委員は総辞職する。」以下、その理由を記する。

1、私たちは、憲法・教育基本法を柱とする現行教育法令を尊重する。
 私たちは、現行法令のもとで知事ともよく話し合い、学力向上や教育機器の整備、学校給食制度づくり、府立高校の特色づくりなど様々な成果を上げてきた。もちろん、まだ残された課題も多い。例えば、学校運営への住民参加などもある。しかし、それらについては国のガイドラインがあり、これらを無視し勝手な制度設計をすることは、現行法令の考え方に反する危険性がある。その他、条例案で提起された問題についても、現行法またはそこに示された理念に即して、教育委員会が更なる改善を進めることが可能であり、今後も力を尽くして解決に当たるべきと考える。

2、私たちは、教育という全ての子どもたちにかかわる根本的な重要課題を、短期間の審議や選挙で決めるべきではないと考える。
 私たちは府立高校の特色化を進め、それぞれの子どもたちが自分に適した力を伸ばし、たくましく生きる方策を学ぶように図ってきた。しかし、今回の条例案は、大阪府の教育の責任者である私たちの一切知らないところで準備され、その理念の根底には「競争主義・管理主義」が貫かれている。競争・管理を一面的に追及することによって教育の質が向上しないことは英米の教育改革等で既に立証されている。したがって、この条例案の現場に与えた衝撃はすさまじく、校長や教師に激しい動揺が起きているのも当然である。
 また、選挙は多様な政策によって民意が問われるものであり、比較1位を争う首長選挙で、政策の一部である条例案の評価を決定するのは無茶としか言いようがない。

3、私たちは、今回の条例が生み出す教育委員会の無力化、教育と政治の一体化を認めるわけにはいかない。
 今回の条例案の議論では、個々の条文に対するものが多いが、もっとも問題なのはこれら条文をつなぐ骨組みにある。修正の有無にかかわらず総辞職するという理由は、まさにそこにあるのであり、以下、条例案に沿ってその骨組みを呈示する。
 条例案においては、「府立学校が実現すべき目標は知事が設定する」(第6第2項)とされ、その目標を前提として校長が公募される(第14条第1項)。校長は教師でなくてもよく、教育活動に支障がなければ民間人で別の職業を持っていていい。任用期間も短く、学校関係者でない「外部有識者」の考えで選ばれる。教職員は、校長の指示に忠実に従い競い合うように働かなければならない。なぜなら、分限対象者になるかもしれない相対評価があるからである(第19条第1項)。こうして、全ての府立学校を知事の意のままに動かすことも出来るようになる。
 さらに、このシステムを強固にする仕組みを読み取ることもできる。例えば、知事は学校環境を整える一般的権限があり(第6条第1項)、自分の考えで自由に決めることも可能である。したがって、意にそぐわない校長の学校に予算をつけない場合も生じると考えねばならない。
 また、学校協議会に関しては、保護者や教育関係者の意見を反映するのはいいが、その委員は校長が決める(第11条第1項)ことになっており、校長の支持者となりやすく、特定の住民の代表になりやすい。
加えて、校長の権限強化は教職員人事で完結する。校長の意に沿えない人事を教育委員会がした場合は議会への報告が義務づけられている(第18条第3項)。権力の源泉は、予算権と人事権と言われるが、この条例案により、教育委員会はこれらを失い、まさに知事の補助機関となる。
 それは現行法制下の教育委員会が壊滅することであり、教育は政治そのものの一部となりかねない。そして条例制定後は、選挙ごとに教育方針が変わる。学校関係者は知事の意向や選挙の動向を絶えず気にしなければならず、政治の流れに過敏となり、校長に近い外部団体の影響が強まったりする状況が生じうると懸念される。

 上記のとおり、本条例案はその内容のみならず、枠組みそのものが政治の介入を厳格に戒めようとする教育基本法や諸法規の精神に反するものである。そして、この条例案は、教育の条例と言うより日本の統治原則の変更を迫る意向を含むといえる。したがって私たちは、本条例を決して是とすることができない。

 強く大阪府民のご賢察を額う次第である。
平成23年10月25日
大阪府教育委員会
教育委員長 生野 照子
教育委員 小河 勝
教育委員 川村 群太郎
教育委員 陰山 英男
教育委員 中尾 直史
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プロフィール

Author:進路ルーム
京都の大学で大学・大学院と8年間を過ごし、高校の教師となりました。文系ですが、コンピュータ大好き人間。人間(生徒)に倦むと機械(コンピュータ)が恋しくなり、機械に倦むと人間が恋しくなります。

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