「ザ・コーヴ」が伝えなかったこと

2010/08/16 Mon (No.52)

 わたしが、「ザ・コーヴ」という映画を見てきたことは、このブログにも書きました。先日、『イルカを食べちゃダメですか?』(光文社新書)という本を読みました。一度、書店で見かけて、そのときは買わずにそのままになっていた本です。著者は、小型沿岸捕鯨担当の水産庁調査員として、1996年から2000年まで太地に滞在し、その後も2003年まで追い込み漁の漁船に便乗していた関口雄祐という人です。今年の7月に発行された本なので「ザ・コーヴ」にも言及しています。

 著者は、「イルカ追い込み漁」が、太地の伝統的漁法であると定義したうえで、その実態を探鯨・追い込み・捕獲・解剖・流通にわたって描いていきます。「イルカ追い込み漁」は太地漁協の水揚げの3割を占め、最大13隻26人体制で、9月から翌4月まで漁が行われます。平均して、月に15~20日ほど出漁し、その半分くらいが捕獲日となります。2日がかりで畠尻湾に追い込まれたイルカはここで捕殺され、浜に揚げられて解剖(解体)されます。解剖されたイルカは、漁協関係者に優先的に鯨肉が分配され、残りの肉が「商業的」に流通すると述べられます。

 「ザ・コーヴ」では、捕獲されるイルカの漁を年間23000頭と報じていますが、これは事実と異なります。2008年の捕獲統計(水産庁)によると、スジイルカ535(5)、マダライルカ329(6)、ハンドウイルカ297(57)、ハナゴンドウ216(8)、マゴンドウ99(1)、カマイルカ21(16)の計1497頭となっています。( )のなかは、そのうち生け捕りの数で水族館に売られていきます。

 イルカは知能が高く、たとえ、水族館で飼育されてもストレスを感じていると「ザ・コーヴ」は主張しますが、著者は、高等動物であるがゆえに、適応力が高く、水族館で3世代にわたって繁殖している例を挙げます。

 「ザ・コーヴ」は、プロパガンダ映画ですから、自己の主張にとって都合のいい部分だけを継ぎ合わせて作られています。そして、イルカ漁の流れのひとつである捕殺の場面をことさらクローズアップしています。映画の最後に流される捕殺の場面も、ディジタル的に着色されている疑いがあると著者はいいます。実際の捕殺現場では、もっと海がにごって、あんな鮮烈な赤色にはならないと、実体験に基づいて述べています。

 「ザ・コーヴ」のもととなる活動は、2001年から行われており、2002年には、イルカを追い込んだ網を切るという直接行動がありましたが、2005年からは、撮影中心になっていったそうです。かれらは、「鯨をとっているということ、そのことが私の気分を害するのだ」という論理に基づいて行動していると著者は考えています。

 わたしも、映画に違和感を抱くのは、それが優れたドキュメンタリー映画で個々の映像がたとえ事実に基づくものであるにせよ、都合の悪い事実は隠して、自分たちの価値観をあたかも絶対の正義のように押し付けてくるからです。フェアでないと感じます。価値の多様性をまったく無視しているからです。地球が小さくなった今だからこそ、文化相対主義、マルチカルチュアリズムを尊重すべきで、単一的世界観をゴリ押しすべきではありません。
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環境保護ビジネス

この映画作成の背後には、シーシェパードの意思と支援が色濃く反映されています。そもそも太地のイルカ漁の妨害は、シーシェパードが行い、代表のポール・ワトソンの妻(今は所在不明:ALFという組織の活動で、地下に潜伏?)も逮捕拘留されました。
彼らの目的は、組織の活動資金の最大化です。そのためには、目立つ活動をし、このようなプロモーションビデオを作製し、メディアに露出することで、募金を増やすわけです。
アメリカなどでは、一定の基準を満たすNPOへの寄付は税金から控除できますので、金持ちが節税しつつ、売名行為を行いうには最適な仕組みなので、ひとつのビジネスモデルとして成立しています。しかし、NPOの看板を出して、無税で宣伝活動するわけですから、偽善的で、非科学的活動です。


プロフィール

Author:進路ルーム
京都の大学で大学・大学院と8年間を過ごし、高校の教師となりました。文系ですが、コンピュータ大好き人間。人間(生徒)に倦むと機械(コンピュータ)が恋しくなり、機械に倦むと人間が恋しくなります。

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