染模様妹背門松

2011/01/05 Wed (No.201)

 1月3日から大阪日本橋の国立文楽劇場で文楽初春公演が行われています。昨日第1部を観てきました。第1部は「寿式三番叟」「傾城反魂香」「染模様妹背門松」の三本立てとなっています。竹本住大夫の「傾城反魂香」もよかったのですが、今日は「染模様妹背門松」の話をしたいと思います。

 「染模様妹背門松」は、油屋の娘お染と丁稚久松との道ならぬ恋と心中を描いた作品です。お染めは16歳、山家屋清兵衛という主家筋に当たる大店の跡取りとの結婚も決まっています。しかしお染は久松の子を身ごもっており、清兵衛とは結婚できないわけがあります。また油屋の番頭善六はお染に横恋慕しています。この狂言のクライマックスは大晦日から元旦にかけての出来事なので初春公演でよく演じられる演目です。最近では、平成10年、平成16年に上演されています。わたしは、平成10年の公演を観ています。平成16年の公演の時は第2部の「良弁杉由来」を観たため、第1部の「染模様妹背門松」は観ませんでした。

 平成10年と平成16年の公演では、「生玉の段」「質店の段」「蔵前の段」が上演されました。「生玉の段」ではお染と久松が連れ添って生玉神社を訪れます。その折り出会った油屋の番頭善六にいやがらせを受けたため、久松は善六を刺し殺し、久松、お染とも自害します。しかしこれはお染久松が同時に見た夢。のちの心中の伏線となります。「質店の段」ではが大晦日の質店(油屋が同時に営んでいます)に久松の在所野崎村から父親久作が訪ねてきます。許婚のあるお染と久松が懇ろになったのを知り野崎村に連れ戻すためです。またお染の母親おかつも久松にお染と別れてくれるよう懇願します。

 幼い二人、障碍があるために返って燃え上がる恋。二人は死を決意しています。清兵衛を案じ、息子と娘の行く末を案じる親たち。わたしの年になれば、おかつや久作の気持ちが痛いほどわかります。大人から見れば、何も見えなくなっている幼いお染と久松、少し時間をおけばもっと冷静になれるのに思わずにはいられません。おかつと久作の懇願に負けて、二人はなくなく別れることを承諾します。一緒にしておくと心中が心配な久作は、久松を蔵に閉じこめ年が明けてから迎えに来ることにします。

 大晦日も更けていきます。「蔵前の段」です。久松を思いきれないお染は、部屋を忍びいで蔵の前まできます。蔵のなかの久松に声をかけて心中の決意を固めます。雪の深更、お染の父親太郎兵衛が、蔵の前の仏間で経を上げています。「朝には紅顔あって夕べには白骨となれる身なり、野外に送りて夜半の煙となし、果てぬればただ白骨のみ残れり。」太郎兵衛は、お染に気づいて招き入れ、「同じ男を持たすなら好いたものに添わしはせいで、むごい親じゃと恨んでくれなよ。」「一筋な子供心で埒もないようなことやなどして、道行に語られるようになったらば、おりゃもう泣き死にかなするであろ」と切々と思いを語り、お染をつれて家に入ります。

 がしかし翌朝、蔵の前でお染は自害していました。久作も駆けつけ、もしやと蔵の鍵を開けると久松も蔵の中で縊死していました。これがよく演じられる「染模様妹背門松」の構成です。 

 今年の公演は、これとは趣向が異なっていました。「生玉の段」も「質店の段」もなく、「油店の段」を中心に構成されています。この段を見るのは初めてです。「油店の段」では善六とその悪友質屋の源右衛門のチャリ場が見どころです。チャリ場というのは滑稽な場面です。この二人は共謀してお染の兄多三郎を陥れようとしますが、ことごとくそこに居合わせたお染の許嫁清兵衛にやりこめられます。やりこめられて窮地にいたった善六と源右衛門の掛け合いは、大阪弁まる出しでまるで漫才です。M1グランプリ以上に笑わせてもらいました。「油店の段」で描かれる清兵衛は20代後半の人格者です。完全すぎて幼いお染にとって荷が重く恋愛の対象としてみることができないのも理解できます。この段の切は咲大夫ですが、多くの登場人物を見事に語り分けています。清十郎のお染は幼さを残した表現です。

 「油店の段」につづいて演じられた「蔵前の段」はかなり省略されていました。蔵の前でお染と久松との間で交わされる長い嘆きもなく、死への引導となる「白骨のお文」とよばれる太郎兵衛の読経もありません。またふたりが蔵の内と外でそれぞれ自害するのではなく、店を追放された善六が蔵の金品を盗もうと鍵を開けたため、ふたりそろってその場から逃げ出すという野澤松之輔補曲の演出になっていました。

 「蔵前の段」にはすこし違和感を覚えましたが、「油店の段」には大いに満足しました。上方の笑いの原点に興味のある方はぜひご覧になってください。23日まで上演しています。ちなみに料金は1等5800円、2等2300円です。
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Author:進路ルーム
京都の大学で大学・大学院と8年間を過ごし、高校の教師となりました。文系ですが、コンピュータ大好き人間。人間(生徒)に倦むと機械(コンピュータ)が恋しくなり、機械に倦むと人間が恋しくなります。

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